ある税理士(甲税理士としておきます)が私に成功例として話してくれた税額軽減事件があります。それは、すでに申告が終わっている相続税の申告について、資産評価を減額して税金を取り戻すという、時々耳にする、あまり評判がよいとは言えない事案です。結果は、かなりの課税価格の減額が認められて、税金の還付がされたということです。職権更正によるものだったそうですが、私は、そんなこともあるのだと感心した記憶があります。それは甲税理士の力量ですから問題ないのですが、私が引っ掛かったのは、元の相続税申告を担当した税理士(乙税理士とします)が支払うことになった次のよう内訳の損害賠償金です(それぞれかなりの金額です)。
① 申告手数料返金分
② 支払相続税額と還付税額の差額補てん
③ 後任税理士報酬額
これを乙税理士が申告納税者Aに分割で支払う契約書を見たときは驚きました。実際、私の年間所得金額など軽く超える金額です。「なんでこんなに賠償金を支払うの?」。甲税理士がいうには、乙税理士がAの請求を全部認めたからということです。本人が支払うことを認めているとしても、これは問題ですね。①が限度だと思います。取得した報酬を返上するというのが乙税理士の意思としても、心底納得していないと思います。申告後に、より有利な評価額を主張するのは、それ以上に悪くなるリスクは少ないし、認められたら儲けものという側面は否定できないと思います。より有利な評価による計算が通用したからと言って、報酬の全額を返還しなければならないのでしょうか。乙税理士の仕事が全部否定されることはないと思います。裁判なら、全額返還義務は否定されると思います。でも、そんな裁判をする税理士はほとんどいないでしょうね。乙税理士もそうでした。紛議調停なら一部返還で止まることもあるような気がします。②は、要するに支払相続税をゼロにするということです。過大だった税金が還付されたのであれば、過払いの税金は取り戻しているはずです。還付金を超える額は支払うべき税金です。こんなものまで損害になるはずがないです。③も、乙税理士の行為による損害には該当しません。Aは、新たに甲税理士に仕事を依頼したのですから、その仕事の報酬はAが支払うべきです。これをAに支払わせる理屈はありません。Aの言い分は、自分が出したお金は全部回収して当然というものでしょうけれど、こんな理屈を通してはいけません。
乙税理士が、何故こんな賠償金を支払うことに同意したのか不明です。もし、損害賠償義務の範囲を誤解したまま支払いに同意したのであれば、非常に残念なことです。しかし、おそらく、何かしら拒み難い事情があったのだと想像します。言い得るのは、こんな不当な請求に加担したりしてはならないということです。だれであれ、そんなことをしていると、厳しいシッペ返しに見舞われるというのが、私の経験から言えることです。そうでないと、神も仏もないことになってしまいます。