第1 所得の種類と弁護士報酬の経費性
1 事業所得、不動産所得、雑所得、山林所得等
弁護士報酬が費用性を持つのは、事業所得、不動産所得、事業に至らない雑所得(事業所得又は雑所得)などの事業ないし業務に関わる事件が主なものになります。これは基本的には必要経費性が認められます。もちろん無条件ではありません。当該業務の遂行上生じた紛争又は当該業務の用に供されている資産につき生じた紛争を解決するために支出した弁護士の報酬その他の費用です(所基通37-25)。
2 譲渡所得
弁護士報酬が、譲渡所得の譲渡費用になることはありますが、和解のケースごとに判断するしかありません。取得費になることもありますが、限定されています(所基通37-25(1))。譲渡費用になるのは、例えば、業務用の資産の譲渡契約の効力に関する紛争において、弁護士が代理人となって交渉した結果、当該契約が有効であることを確定させて解決ができた場合の費用などです(同(2)注)。当該譲渡資産を有利に譲渡することに寄与した弁護士費用であることが必要です。取得費になるのは、所有権の帰属が争いになっている紛争で所有権を確保することを確定する和解の場合などです。ポイントは資産の取得に係る弁護士報酬であることです。所有権の帰属に係る紛争において所有権を帰属させることは資産の取得に係る費用となるからです。
3 一時所得
一時所得の「収入を得るために支出した金額」該当性は一概に言えません。判例は、資産を時効取得する和解については否定していますが、立退料受領者の一時所得については、実務は経費性を否定していません。おそらく、時効取得は、要件を満たしている当事者が援用によって権利を取得できる(確認的なもの)であるのに対し、立退料の確保及びその金額の多寡は、当該弁護士の交渉に係るところが大きいことによるものと思います。立退料は一種の補償金でもありますから(立退補償)、弁護士報酬の経費性は認めるのが相当です。
4 遅延損害金(雑所得)
性質的には利息です。時の経過によって自動的に取得する利得ですから弁護士費用が必要経費になることはないと解します。もっとも、遅延損害金を含む損害賠償金について遅延損害金の金額について弁護士費用が必要経費になることを認めた判例があります(大分地判H21・7・6)。ただし、これが先例になるか疑問です。 金融業者が得る遅延損害金は事業所得の収入ですから、弁護士費用が必要経費になることは業務の関連性で認められます。
5 給与所得、利子所得、配当所得、退職所得等
一般的には弁護士報酬が必要経費になることは考え難い所得ですが、給与所得や退職所得の支給をめぐる紛争では、それを確保することに要した費用ということもあり得るかもしれません。しかし、賃金に関する紛争は「解決金」「和解金」の支給という形態をとることが多いです。その場合は、一時所得又は雑所得の必要経費になるのが通常です。(一時所得→「3 一時所得」、雑所得→「1 事業所得、不動産所得、雑所得、山林所得等」) 第2 事件による弁護士報酬の経費性 1 家事事件(夫婦関係調整、離婚、離縁、遺産分割に係る調停、訴訟上の和解等) 弁護士報酬は基本的には当事者の家事費であって、当該当事者が事業所得者等であってもその所得の必要経費に算入することはできません。遺産分割事件について和解をしても、弁護士費用は相続税の債務控除費用ではありません。相続又は遺贈による資産の取得では取得価額を引き継ぎますが(所法60①)、その際の取得費にも算入されません。 ただし、家事事件の和解において、資産の譲渡や債権・債務関係の設定をすることがありますが、それが譲渡所得等の課税関係を生じさせるものであれば、それに関与したことによる弁護士報酬が譲渡費用等の額に算入できることはあり得ます。
刑事事件報酬
刑事事件そのものでは和解などありませんが、刑事弁護人が被害弁償の示談をしたり、犯罪行為、法令違反に関わる行為について民事上の和解をすることもないわけではありません。 一般的には、刑事事件の弁護士報酬は家事費です。ただ、事業等の業務を営む者が、その業務の遂行に関連する行為について刑罰法令に違反する疑いをかけられたような場合は、違反による処罰は営業の継続に重大な影響が生じますから、業務関連性も必要性もあります。その限りでは、必要経費性は認められるのですが、違法行為の弁護費用を無条件に必要経費として控除できるとすると、犯罪者に課税上の利益を認めることが許されるのかという、違法支出を必要経費にすることの可否と同じ問題を含んでいます。実務では、法令違反の処分を受けないことになった場合又は無罪の判決が確定した場合に限って必要経費の算入を認めています(所基通37-26)。なお、法令違反はない、刑事責任はないと信じて支払った着手金は、後に違反があったと認定されるか、有罪の判決が確定しても、遡って必要経費であることが否認されることはないでしょう。肝心なことは業務関連性です。
使用者が負担する損害賠償金に係る弁護士費用
(1)使用者が使用人の行為について故意又は重過失がない場合で使用人の行為に業務関連性がある場合
使用人に故意又は重過失があるなしにかかわらず、使用者が負担する損害賠償金と弁護士費用は使用者の事業所得等の必要経費に算入できます(所基通45-6)。
(2)使用人の行為に業務関連性がない場合 使用者が雇用主としての立場上やむを得ず負担したものは必要経費に算入できます。ただし、家族従業員に係るものは除きます。