2 なんのための審尋
この退去命令は、申立人が安心して引越しをするのために生活の本拠に加害者を近づけさせないためのものだとわかった聖世弁護士は少し安堵しました。
事案では、申立人Bが家を出てほぼ2か月になりますが、その間に、Bはかなりの荷物を運び出していました。「Aは出ていてくれ」と言われれば従っています。何度かBに言われて必要なものを指定されたご近所に預けて、そこを経由して渡したりもしてきました。Aにすれば、日時さえ指定してもらえるなら、いつでも退去するし、協力するつもりだし、そのようにしてきましたし、伝えてきました。「近づかない、無理強いしない」という文書も渡してそれを守ってきています。そして、申立人に代理人がいるのもわかりました。代理人間で日時を決めればいつでも安心して引越しをしてもらえるようにできます。こんな事案で退去命令が必要なんでしょうか。
答弁書は、退去命令に焦点を当てて、その命令の不必要性を訴えました。
現在はそんな危険を感じる状況ではないことを一所懸命に主張しました。引越しにはいくらでも協力すると言いました。何よりも、店舗を閉めるのは死活問題であるから、せめて命令を発するのをずらせて、もう一度審尋期日を指定して、その間に実際に引越しをしてもらうように訴えました。申立人に代理人がいるのですから、しかも1日で引越しができると言っているのですから、申立人さえその気になってくれれば次回期日までにこの件のケリは間違いなくつけられると主張しました。
しかし、裁判官は聞いてくれません。
裁判官 この申立書に書かれていることは事実ですか。
A どの部分ですか?
裁判官 あなたが暴力をふるって、Bさんが怪我をしたことです。
A それは反省しています。
弁護士 でも、Aも怪我をしています。暴行をいうならどちらにもあります。
A (夫婦喧嘩の原因などを説明するが、裁判官は無関心)
裁判官 保護命令の要件は満たしていますね。
弁護士 いえ、少なくとも退去命令の必要性はないと思っています。
裁判官 どういうことでしょう。
弁護士 いつでも日時を特定してもらえばAを退去させます。Bには代理人もつかれているので、今後は話し合いができます。命令がなくともBの引越しは安全にできます。(聖世弁護士は、裁判官が答弁書を読んでさえいないのではと疑います)
裁判官 そういう制度ですから。期間を短くすることは法律上できません。
弁護士 少し、命令を出すのをズラしてもらえれば必ずその間に引越しをしてもらえるようにします。
裁判官 できません。
弁護士 もう一度審尋期日を指定していただいて、当方の主張を申立人にも確認してもらうようにしてください。その間に、引越しはできると思います。
裁判官 保護命令は迅速にしなければなりませんから…。
A 私の事情は考慮してもらえないのすか。
裁判官 ・・・
弁護士 少しだけ猶予期間をいただければ必ず引越しはしていただくようにします。
裁判官 それを私に言われても…。今から命令書を作成しますから待機してください。
弁護士 何も聞いてもらえないのなら、なんのための審尋期日なんですか!
命令書(決定)なんてとっくに作成しているはずです。ハンコを押して持ってくるだけです。
支援センターと警察がDVを認定していれば申立どおりの命令を出すのは決まったいるとしか聖世弁護士には思えません。
ここで、決定書をもらったら、Aは家に帰れません。なにも準備していません。火の用心も気になりますが、着替えもお金も持ち出さないと動けません。どうしようかと相談をしていると、本当に審尋法廷から逃げ出すことを考えてしまいます。
Aには代理人などつけないで、今日だって出頭しないで、退去命令が出た場合に備えることをしていた方がよかったのではないかと聖世弁護士は思ってしまいます。結果としてAの不利益になってしまったような気がします。
続く → 3 退去命令の回避
後日掲載予定