3 一日の猶予
退去命令に執行力がないといっても違反すれば刑罰を科せられる。
何を言っても保護命令は出される。違反があれば言い訳など聞いてもらえないと覚悟しなければならない。なにせ、加害者が悪いと決めつけられているのです。生命、身体に危害を加える恐れがあるから保護命令が必要だとされたのです。悪者には容赦がありません。
Aの一旦帰宅が、たとえ火の始末をするため、身の回りのものを持ち出すため、閉店の準備のためであっても、家に戻ったところをBに目撃されたら許してもらえないと思います。
ともかく、対処方法を決めなくては。
裁判官と書記官が退廷している審尋法廷で聖世弁護士とAは相談する。
聖世弁護士は、Aに、今からすぐに帰って火の始末としばらく自宅外で暮らすための金と衣類を持ち出すように言いました。とにかく、長居をしなければ見つからないだろうということです。まさかBがこの時間に見張っているということはないと思います。それで、もし違反を問われたら居直るしかないです。
こんな日に子供の稽古事で関係者が家に集まるというのです。Bも来るということです。だからAは寿司を頼んでいるといいます。それなのに帰ることもできないなんて変な話ですが仕方ないです。だれか身内に来てもらって対応するしかありません。
Aは地域活動の事務局長をしているし、自宅はその拠点になっています。それが休止になることの対応はどうしよう。パソコンやデータは持ち出してどこに預けようか。
そんなことをヒソヒソと相談していたら、書記官が入ってきました。こんなに早いのは『やっぱり命令書なんてできあがっていたのだ』と聖世弁護士は思いました。
ところが、
「先ほどの審尋を踏まえて、今日の言渡しはしないで、決定書を送付することにしました」
と書記官が言います。
つまり、郵便が送達されるまでの時間が猶予されることになります。
今の郵便事情なら、今日中に投函されたら翌日には届くと思われます。たった1日の猶予ですが、それでも今日は開店して、明日からの一時退去に備えた準備ができます。これで、どれほど助かったことか。
続き → 4退去命令の伝達