特別寄与者は、被相続人に対して、無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について寄与をした被相続人の親族(特別寄与者)が、その寄与に応じた額の金銭の支払いを相続人に請求できることになりました(民法1050①)。
しかし、夫婦の間で特別寄与料の請求を本気でするでしょうか?
これが最初の疑問です。
特別寄与料はYの一身専属権ですが、行使するか否かはYが自由に決めることができます。ですから、Yは夫のAに対して請求しないこともできます。
それはいいのですが、それって、放棄になりませんか?
放棄となると、反射的に税法のことを考えるのが実務家です。
しかし、これが一筋縄でいかないのがこの問題です。
放棄とは権利の免除です。免除された債務者には免除益があります。免除益が経済的利益であれば、贈与税が問題になります。
では、Aには免除益があるのでしょうか。
「そんな気はありません」と、端からAに請求する気がない場合はどうでしょう。
特別寄与料というのは、協議で決まるか、家裁の処分で決まることになっています(民法1050③)。それが決まる前は、未だ金額も定かでない抽象的な債務ですから、免除益というものは発生しません(CHART 税務判定「免除益の課税関係」#特殊な債務と免除形態で確認してください)。つまり、課税問題にはなりません。
でも、Yがそんな態度をとれば、他の相続人の乙やB、CらはYの要求額をそのままでは応じないかもしれません。Yが最初から「Aにだけは請求しません」なんて他の相続人に宣言することはないと思います。
普通の請求場面を想像してください。
Yは相続人全員と相談して、特別寄与料の額を決めます。
例えば、Yが特別寄与料を600万円と算定して請求していたとします。指定相続分がなければ、相続人各自の負担額は次のとおりです。
妻 乙 300万円
長男 A 100万円
二男 B 100万円
三男 C 100万円
特別寄与料の総額が決まると、各相続人の負担額も自動的に決まります(民法1050⑤)
この段階で、YがAに対して「請求するつもりはありません」とか「あなたは結構です」なんて言ったとしたらどうなるでしょう?
これは具体的な債務の免除です。
Aには免除益が発生します。
この金額だけなら、Aに贈与税課税はありません。 しかし、甲の遺産が相続税を申告しなければならない案件であってとすると
Aが、甲相続について、相続税の申告前だとすると、Aは取得財産の課税価格から100万円を控除して相続税の課税価格を計算できるのでしょうか(相法13④)?
相続後であれば、更正の請求ができるのでしょうか(相法32①七)。
免除をされたのだから、もはや控除できない?
では、Yが特別寄与料をみなし遺贈として相続税の申告をするのは、
1,000万円でしょうか 900万円でしょうか(相法4②)
結構難しい問題です。
意外な結論を想定しています。
拙著 相続 税法IN民法 改訂増補版Ⅰ以上
「特別寄与料の免除等による課税問題」で詳しく論じています。