前回の続きです。
前回は、特別寄与料が確定しても、特別寄与者のYが相続人である夫のAに請求しない(免除)をしたという場合でした。
今回は、最初からYがAに対する請求をしない場合を考えます。
確かに、特別寄与料が確定しない間は、YがAの具体的債務を免除することはありません。そして、Yが敢えてAに対して特別寄与料の請求をしないのも、権利の処分としてはあり得ると考えます。
本当にAは具体的な債務を免除されることにならないのか?
これを検討します。
こういう関係は一般的なものとして想定されますが、いってみればYと相続人らは家族関係ですから、乙やB、CもYがAに請求しないことを承知していて、それを特段に問題にしないこともあり得ます。
こんな場合、Aには負担額の確定も、免除による受贈益もないということになるのでしょうか。
それほど単純ではありません。
私個人は、この場合も、Yは後に確定するAの負担額を免除することになると考えています。というのは、相続人の特別寄与料支払義務の負担額というのは、特別寄与料の額が確定すると各自の相続分に応じて自動的に決まるのですから(民法1050⑤)、Aが参加していないというだけでAが負担義務者でなくなることはありません。Aは他の相続人が決定する特別寄与料によって自分の負担額が自動的に決まることを承知していなければなりません。相続人である限り、自分も負担しなければならないのは承知できるし予定することができます。協議や決定過程に参加しないとしても、それが決まれば受け容れることを事前に容認しているものとみなしてよいと思います。そうすると、Yは今後に決まる具体的な負担額支払義務を予め免除していると解することができます。それは、負担金額が確定することを停止条件とする免除だと思います。負担金額が確定した段階で、YがAに対して請求をしないのであれば、Aの負担額相当額を贈与したことになります。たとえ、その時点で、Aが自身の負担額を具体的に認識していなかったとしてもです。
事実認定ですから、必ずこうなるとは言い切れませんが、特別寄与者が相続人の一部について請求する意思がない場合でも、その相続人が他の相続人と特別寄与者の協議で特別寄与料が確定されることを承知しているのであれば、このような認定がされるのではないかということです。
もとより、まったく知らないうちに特別寄与料が合意されたとしても、その特別寄与料に対する負担額について支払いを強いられることはありません。その場合は、特別寄与者とその相続人との間では、未だ特別寄与料の額が確定していないことになります。
実務NOTE 8-11