今回もこれまでと同じ特別寄与者と相続人の関係です
今回は、夫婦が馴合いで特別寄与料を決めた場合です。
特別寄与者はYです。
夫Aは相続人ですから、Aに対しても特別寄与料の請求権があります。
特別寄与者Yは相続人らに特別寄与料600万円を請求しました。
Aは早々にYの請求に同意しました。
相続人の負託額は次のとおり自動的に確定するのでしょうか?
乙 300万円
長男 A 100万円
二男 B 100万円
三男 C 100万円
前回の「夫婦間の特別寄与料請求②」では、Aが特別寄与料の協議に参加していなくても、Aには確定する負担額を認識できるので、確定する負担額について支払義務を認めることができるケースでした。
今回は、YとAの夫婦間で特別寄与料を600万円と決めてしまいました。そして、乙・B・Cにその旨を通知したところ、BとCは同意しましたが、乙は「勝手に決めても承服できません」とYに電話してきました。
そのまま、被相続人甲の相続税申告期限が到来しました。
相続人はそれぞれの負担額を控除して各自の相続税を計算して申告できるのでしょうか ?
結 論
① 乙が知らないうちにYとAが特別寄与料を600万円と決めてしまった➡乙には負担額の支払義務はありません。
乙は、取得財産の課税価格から控除できる負担額がありません。
Yは、乙以外の相続人の特別寄与料(300万円)についてのみ相続税の申告をします(みなし遺贈)。乙の負担分については取得財産となりません。
② Yと乙が、Aらとは別に特別寄与料の金額を400万円と合意した➡乙は、取得財産格から負担額200万円を控除、又は申告後なら更正の請求ができます。
他の相続人らの負担額に影響がありません。したがって、Aらは、申告済みの相続税について更正の請求などはできません。
Yは、乙の負担額200万円について、乙との合意の日の翌日から10か月以内に相続税の申告をします。
③ Yが乙対して請求しないまま6か月が経過して特別寄与料の請求権を失権した➡乙は特別寄与料の支払いを免れます。
Yの特別寄与料の取得額(みなし遺贈)は300万円にとどまります。
一応、このような結論になります。 ただし、本件ではYとAが馴合いで特別寄与料を確定させています。その額が客観的な特別寄与料の額とあまりにも乖離していて、Aや他の相続人らにもYへの贈与の意図があるような場合は、客観的な特別寄与料の金額を超える部分はY(特別寄与者)への贈与となる場合があり得ると解しています(私見)。その解釈では、Aらが相続税の課税価格に算入しない金額は贈与とみなされる部分は除外されることになります。Yのみなし遺贈となる金額も、その部分が除外されて、それは受贈益となります。 しかし、本件では、後に乙がYと合意した金額が著しく乖離があると言い切れるのか微妙ですし、B,Cも同意していることなどから、贈与があったといえるか問題です。それは別に検討します。 |
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