個人間の私的な貸金の回収相談はかなりありますが、債権の元本回収自体は課税対象になりません。税金の問題が起きるとすれば利息金とか遅延損害金を回収した場合です。無利息貸付が多いので、課税所得の問題にはなりません。注意しなければならないのは遅延損害金です。というのは、これを取得すると雑所得の収入金額になります。しかし、実際に申告している人がどれだけいるか疑問です。金融業者並みに利息を科している人が遅延損害金も取り立てているような場合でなければほとんど問題にされることはないでしょう。
元本が回収不能になっても貸倒処理ができるのはその年の雑所得の金額が限度です(所法54④)。無利息で貸しているのが普通ですし、利息収入があっても申告していないことも多いです。そうなると、雑所得の金額自体がないことになります。個人の債権回収の事件を受任しても、回収ができないことが多いと思います。そんな場合はせめて貸倒損失で所得税圧縮を図りたいところですが、雑所得は他の所得と通算できません。申告雑所得もないとなると、いよいよお手上げです。
ですが、時として貸付金元本の回収不能を確定させることによって税務上のメリットを得られるのに、未練のある和解をしたばっかりにメリットを受けられなかったという事案があります。
個人の非事業者であっても、かなりの額の雑所得を稼いでいる人もいます。例えば、株式投資をしている人ですが、上場株を反復継続して売買したり、信用取引をしていると、それによる利益は雑所得になります。譲渡所得ではないのです。たまたま投資が好調で雑所得金額が高額になっていたのに、見込みのない貸金の回収訴訟を続けていたため、その年の貸倒損失の額を株式取引の所得から控除できなかったというのです。
回収見込みのない債権には見切りをつけて、放棄をして法律上の貸倒損失額を確定してしまうことを考えるべきです。タイミングを考える必要がありますが、未練たらしい和解をすると、損失を税金圧縮でカバーできる機会を失うことがあります。
参照
和解の法理と税務/Ⅰ売掛債権(2)解説1
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和解の法理と税務1.7の紹介 https://www.yamana-tloffice.com/law-tax1-7/