前の資産の売主とは反対の、資産の買主が支払う弁護士報酬の経費問題です。
訴訟物件の不動産を買い取る和解をしたとします。例えば、明渡請求をされていた賃借人が居住用の賃借物件を買い取る和解というのはよくあります。被告・賃借人の代理人が、明渡請求を拒絶したこと、時価よりもかなり安く居住不動産を取得できたことなどの経済的メリットがあったことを理由に報酬をもらったとすると、賃借人はこの不動産の取得に関して弁護士に着手金と報酬を支払ったような気になると思います。
賃借人からの相談はないのですが、代理人の先生からの相談は時々あります。
弁護士報酬は依頼者の税金について何かの経費として控除できないかという相談です。おそらく、依頼者から訊かれているのだと思います。
あるいは、これから報酬を請求しようという段階で「何らかの経費にできないか」という訊き方になります。
賃貸人なら、少なくとも着手金は不動産所得の必要経費に算入できるのですが、賃借人にはそれがありません。居住用資産の取得ですから、必要経費ということはあり得ないし、取得費になるかならないかくらいしか問題になりませんと答えると、「それではあまり意味がないなー」となります。
そのうえに、「取得費にもなりませんよ」というと、「えー!」とおどろかれます。賃貸借契約の終了、解除消滅を理由とするような明渡請求事件で目的物件を買取取得したのでは、取得に要した費用にはならないと解されています。所有権の帰属を争うような事件で、最終的に所有権を確定することになった和解なら取得費になり得るのですが、売買を理由とする所有権移転の和解では無理だと思います。
この問題を法科大学院の院生に出題すると、かなりの答案が、民事紛争解決手続きや訴訟における弁護士の役割とかその必要性、重要性、訴訟手続きの困難なことなどを理由にして「必要性」を強調して取得費に該当すると結論します。つまり、所得税の「必要経費」の要件に当てはめているのです。取得費の概念や要件に思い至らないのでしょう。試験でなければ結構間違わないのですが。でも、弁護士が間違うのは恥ずかしいです。
もっとも、依頼者が当該不動産を売るころには先生の領収証まで持っているかどうかわかりませんが。
参照
和解の法理と税務/和解の税法講座/和解と弁護士費用
税法概念の解説/取得費
和解の法理と税務 https://www.yamana-tloffice.com/law-tax1-7/