所有者と仲介業者の売却利益折半
仲介(媒介)契約書作成について助言を求められました。
建物を改装して商品価値を高めて販売するけれど、所有者の希望価額を超えて売れた場合は、その利益を譲渡者と改装業者兼仲介業者が折半するというものです。
どこが「よい知恵」か
① 所有者は売却物件の商品価値を高めることができる。
② 仲介業者は手数料収入が期待できる。
③ 改装工事請負業者は請負工事を受注できて請負代金収入が得られる。
こういうメリットがあるというわけです。しかも②と③は当該不動産が売却できたときにその代金から回収できます。今回は②と③を同一業者がしていますが、法人の場合もあり得ます。双方にとって悪くはない契約です。
そこで、「甲(所有者)と乙(仲介業・工務店)は目的不動産が〇〇〇〇万円(甲の希望手取額+②③の金額)を超える金額にて売却できた場合は超過額を折半する」という条項を作成しました。
これで通じないことはないと思いますが、変な誤解が生じかねません。
文字通り読むと、甲と乙は譲渡益(キャピタル・ゲイン)を折半したように読めます。そうすると、乙はそれを買主から得た収入と錯覚してしまうかもしれません。それは間違いですね。乙はこの売却不動産の所有者ではありませんからキャピタル・ゲインを取得できるはずがありません。その全部が甲に帰属して、その一部を乙が甲からもらうに過ぎないのです。しかし、相談している乙は首を傾げています。
ところで、甲の譲渡所得の計算は大丈夫でしょうか?
元々の取得価額+改装工事代金は取得費
仲介手数料は譲渡費用
ここまではわかるのですが、この条項では売主甲の譲渡収入金額が見えにくいですね。
甲と買主の売買契約書に表示される売買代金の金額が譲渡収入というのがあるべき姿です。
この場合、この折半金額(甲が乙に支払った分)が譲渡収入から控除できる経費であればいいのですが、性質的には譲渡費用にも取得費にも該当しないような気がします。譲渡収入の一部を乙に渡したというのが実体に近いと思います。しかし、それでは贈与になりかねません(甲に帰属するキャピタル・ゲインの1部を乙に取得させる理由がないと考えればです)。
とはいえ、契約に根拠がある支払いですから、贈与というのは納得できません。乙は事業収入又は益金に算入すると思います。仮に、乙が受贈益として基礎控除の範囲内だから非課税と考えて申告しなかったとすれば、課税庁が知ればですが、事業収入に算入するように指示すると思います。
改めて考えると、売主甲の希望売却価額を超えたのは乙の仲介業務の成果だと考えれないでしょうか。そのキャピタル・ゲインを得るのに乙の特別な寄与が認められるとして仲介手数料の追加支払分といっても間違いでないと思います。宅建業法や建設省告示の報酬制限に抵触する恐れはありますが、仮にそうだとしても、制限を超える額が必要経費や益金に算入できないわけではありません。別の問題です。
そして、上記の条項ですが「売却できた場合は超過額を折半する」というのを「売却できた場合は、甲は超過額の2分の1相当額を乙に支払う」と改めた方が譲渡所得の申告という観点からは金額が明確になります。乙からは「仲介報酬割増分」との名目で領収証を得ておけば譲渡費用として控除できるでしょう。
相談した業者が知恵をしぼった売却方法であり契約です。契約の目的や趣旨を逸脱しないように条項を整えるのが弁護士の仕事ですが、相手の税務申告のことまで視野に置いた契約条項を考えたいものです。