弁護士はクライアントの債権の回収を目指します。それは当然ですが、弁護士に依頼してくるのは、その債権の成立、債権額に問題がある場合のほか、債務者が債務の履行をしてくれないからというのもあります。
しかし、債権の存在と債権額を確定しても、回収ができないのでは法律上はほとんど意味がありません。せいぜい、消滅時効の中断くらいです。おっと、改正民法では「時効の更新」でした(147条)。回収ができないことが事前にわかっていれば、裁判まですることはないと思います。強制執行をすれば少しは回収できるかもしれないと思って訴えを提起するのだと思います。
裁判を起こして、被告・債務者の弁解を聞いたり、その資力を調べたりしていくと、債務者の経済状態だけでなく、資産や担保価値などからみて、たとえ勝訴判決を得ても回収がきわめて難しいと想定できる場合もあります。むしろ、債務の存在や金額にさほど争いがない事案で、債務の履行だけが遅れたり一部不履行になっているような事案では、債務者に債務の履行資力がない場合の方が普通のような気がします。こんな場合は、債権放棄(免除)をして貸倒処理をした方が懸命と思っています。少なくとも、弁護士はその検討をするべきです。
しかし、弁護士は、一部だけでも回収を約束させる和解をしようとする傾向があります。よく見かけるのは、債権の一部を約定期限までに支払えば残債権は放棄(免除)するという和解です。債務者に一部弁済でも促すことになりますから、ダメモトでも債権回収を期待できなくはないと考えると、弁護士としては悪くない和解のように見えますが、すでに資力を喪失している債務者は、実際にはその一部弁済さえ履行できない可能性が大きいのです。債務者が一時しのぎで一部弁済を約束しただけということは大いにあり得ます。この点では、同じ一部弁済でも、債権額自体を争っている事件の和解のように、債務者の支払能力とは関係ない領域での和解とはまったく異なります。
無資力債務者とこんな和解をしてしまうと、その和解時点では貸倒処理ができません。一部弁済を約束しているのですから、債権は回収不能でないことになります。貸倒損失の計上は、クライアントの営業利益との関係でタイミングを失すると大損をすることがあります。回収可能性の薄い債権であれば、回収不能時期を先延ばしすることが所得金額の計算上にどのように影響するかを考えるべきです。あまり目立ちませんが、弁護士が税法を考慮しない和解をする失敗例の一つだと思います。弁護士が貸倒損失の経費計上を知らないからというわけではなく、回収しうることを至上目的にしてしまって、税務上のメリットを考慮する余裕がないのだと思います。
参考
総合検索/一部回収と一部免除 /Ⅰ(3) 解説1 外