古い家並みの地域だけれど、都会の中心部にあるため、マンション敷地として買い取られることになりました。ひと昔前なら「地上げ」と騒いだものですが、相場よりもかなり高額で土地を買ってもらえる機会でもあります。
住んでいるのは老夫婦だけになったので、古い家を売って、そのお金でこじんまりとした新しい家を買うことになりました。ついては、息子が将来の相続税対策に半分の持分を入れておきたいと言っているということです。
相談を受けている弁護士から連絡がありました。古家の譲渡に係る税金は3,000万円の控除を受けられること、相続税対策は娘さんもいるので二人が共同で4分の1づつの登記をした方が将来の揉め事にならないで済むとアドバイスしているということでした。これでいいかと訊かれましたが、すぐには答えられませんね。
先ず確認したのは、売却する不動産の名義。これはご主人の単独名義。何代目かの相続物件で取得価額は不明、今回の譲渡価額は約5,000万円とのこと。ご夫婦には長男と長女が同じ街におられていずれも独立して家庭を持っている。今回の売却については息子が全部手続きをしている。新しい住まいは3,000万円だから、旧い家の譲渡代金を充てても余りが出るので譲渡所得税くらいは支払えるということでした。
相談をしてきた弁護士は、税金のことよりも、将来の相続のことを心配している様子ですが、相続は、子どもの代よりも、夫婦間の相続のことが先になるのが順番です。確かに、息子が持分の2分の1を登記をするというのが、相続税対策という理由は腑に落ちません。先に心配するのは、お金も出さないで2分の1の所有者になるとすれば贈与税が課税される可能性のことです。それくらいはわかりそうなものですから、何か別の理由があるのかもしれません。それよりも、譲渡所得税については居住用不動産譲渡の特例3,000万円だけで終わりにするというのは、少し税を知っている人なら変だと思うでしょう。ご夫婦は当然20年以上の婚姻歴がありますから、ご主人から奥さんに居住用財産の贈与(2,000万円分)をしてから譲渡すればご夫婦の譲渡益に3,000万円控除の特例適用がありますから、譲渡所得税は課税されずに済むと思われます。もちろん、特定贈与財産ですから贈与税は課税されません。これは、売却直前に贈与して登記をしたとしても特例の適用はあります。
弁護士がこの程度の税知識がないのは残念なことですが、通常は、仲介業者が合法的な節税策は教えてくれるものです。どう考えても、今回は息子の描いている資産の譲渡と取得のスキームが不自然です。次の相続でも、配偶者が相続する分については相続税の心配はありません。息子に半分取得させておくのは、もう一人の相続人との関係ではもちろん望ましいことではありませんが、息子・娘の共有にしたとしても、贈与税の問題は生じますし、相続税対策になるとは思えません。
せっかく、相談者は弁護士を頼りにして相談しているのですから、税金のことは知らなかったでは済みません。
しっかりと対応をしてもらいたいものです。
コメントをお書きください