よく税理士さんからも聞かれるし、法理相談でもよくある相談です。
弁護士なのだから法的に対応して相続人の権利を回復してもらいたいという思いがあるようです。しかし、家事事件は法律で処しようとすると限界があるのです。弁護士が無力というわけではないのです。
よくある相談内容として、共同相続した不動産を相続人の一人が独占的に使用していて、「遺産分割はその事実状態を認めなければ応じない」と理屈にならない要求をしているようなケースです。
現に使用している相続人が取得するのが穏当と思える事情があるのならいいのですが、一人暮らしであった被相続人の家に、扶養も介護もしていなかった相続人が乗り込んだまま住み着いてしまって、遺産分割を拒んで好き放題に使っているなどというのは、かなり極端な例ですが、似たような事例はあります。要するに、相続人の一部が独占的に遺産資産を好きに使っていることについての他の共有者の不満です。遺産家屋が便利の良い資産価値の高いところであれば、他の共同相続人の不満はつのります。
さて、対抗処置ですが、共同相続の場合は各相続人が遺産を共有している状態ということは知られているのですが(民898)、共有物についての各共有者の持分権については、相談者が期待しているほどの強い排他性や請求権的性質はないのです。逆に、持分権といえども、共有物に対する所有権者として全部を使用する権利を持っています。持分割合に応じた部分しか使用権限がないというわけではないのです。この共有持分権の性質を理解していただくのが先になります。
共有物の管理等については民法に規定があります(民法249条以下)。
相談者が一番に望むのは、現在の遺産家屋を占有している共同相続人の立退き、明渡しですが、これが、多数の共有持分を有しているからといって当然に明渡請求ができるわけではありません。相手も持分を有しているのですから、その持分割合にかかわらず、遺産家屋の全部を使用・利用する権利、すなわち居住する権利を持っているからです(民249)。それなら「『自分らも住まわせろ』と言えますね」と問い返されることが多いのですが(さすがに弁護士にはいませんが)、要求することはできますが、相手の同意がないのに勝手に当該家屋に入り込んで居住できるわけではありません。そこに既に居住している人の生活の平穏を侵すことはできないのです。半面、その家に相続人のだれもが住んでいないのなら、共同相続人のそれぞれの使用権限は対等です。また、居住者が同意するのなら共同で使用することは可能です。その場合に「持分に応じた使用」方法を、使用できる期間の割合も含めて決めることができます。
しかし、こんなことを回答しても、ほとんど相談者の疑問や悩みに答えていることになりません。つまり期待に応えていないのです。
よく訊かれるのは、持分割合で占有相続人の持分を上回る共有持分(法定相続分又は指定相続分になります)があるのだから、共有物の管理行為の一環として立退きや明渡請求ができるのではないかという相談です。正面から扱った裁判例がないのでわかりませんが、相手の持分権をまったく否定してしまうことになるので、よほどの事情(独占的占有や持分権者の抗弁が権利の濫用になるような事情)でもない限り難しいと思います。また、その前に、そもそも明渡請求が管理行為になるのかという問題があります。これが共有物の変更だと解されると、共有者の全員が同意しなければできないことになりますから、不可能ということになります。そして、共有物の変更と解される可能性の方が高いのです。
単独占有者は他の相続人の共有持分についても使用収益しているのですから、賃料を支払わせることができないのかという相談もあります。賃料は契約関係がないので発生しませんが、不当利得の返還請求のような方法での金銭請求はする余地がありそうです。ただ、無権利者ではないので、無償使用がまったくできないということではありません。そこで、「持分に応じた使用」を理由に、占有者が持分以上の使用をしているということを不当利得と構成して、その返還請求ができるのでないかと思うのですが。これを認めた裁判例はありません。
こんな説明をしていると、もう、相談者はうんざりして落胆されているのがはっきりわかります。
この問題は、結局は遺産分割の問題なのです。遺産分割の協議の中で、当該不動産を占有相続人の取得財産にするか、するのなら分割時までの使用利益を含めて各相続人の取得財産を決めて、最終的には公平になるようにするしかないのです。
では、遺産分割の協議や調停で折り合えないで、審判になれば、家庭裁判所は独占占有者の経済的利益を考量した審判を本当にしてくれるかと訊かれると、「それはわからない」と答えるしか私にはできません。ただ、そのような主張はしておく価値があるとはいえます。
法的解決というのは、実に歯がゆくてじれったいのが実情です。その原因は次回に考えてみます。
参照
H.P又は実践対応 実務問答NOTE/相続事件/相続開始後の法律と相続税の問題/【遺産の独占使用】【共有遺産の管理】