前回、遺産不動産の独占的占有者に対する対抗手段に有効で強力なものがないことを説明せざるをえませんでした。その理由は、相手も同じように持分を有していること、その持分が持分割合の大小にかかわらず共有物の全部について使用権限があるということを説明しました。ここでは、それに加えて、共有物分割請求権の行使制限のことを説明したいと思います。というのは、共同相続人が遺産を共有相続すれば共有なら、共有物分割請求ができるではないかという問い合わせがあったからです。
共同相続人がこれほど無力なのは、未分割の、単なる相続分による共有者には、共有物分割請求権(民256①)の行使が認められていないからだと思います。共有物分割請求権(民256)は持分権者が単独で行使できる最も強硬的な権利だと私は思っています。不満のある共有関係の解消を求める最終的な権利です。その行使が制限されれば、共有者だといっても立場が弱いのは仕方ありません。
未分割遺産については、この分割請求権の行使は認められないのです。遺産分割が先であり、それを経ない共有物分割請求は認められていません(最判昭62年9月4日、判時1251-101、東京高判平2・5・21判時1352-69)。したがって、共同相続人による共有財産だとされていますが、遺産分割で最終的な帰属を決めるとか、現実占有者との利害を調整するのことが期待されているということになります。
とはいえ、その遺産分割がいかに困難であるかは、実務家ならだれしも知るところです。そして、相続税の申告と納税は待ったなしなのです。