保証人であるが故に、その履行のために資産を譲渡した場合に、求償権行使が不能であれば譲渡所得税は課税されないということはよく知られています。
ところで、弁護士が保証人の代理人になった場合、保証契約そのものを争えないとすると、せめて保証人の責任範囲を少なくしようと弁護活動をします。というのも、主債務者や他の保証人に求償権行使ができないようなケースが普通だからです。
非事業者の場合、あるいは事業者であっても保証債務を負担することに業務関連性がない場合は、求償権行使不能による損失を税務上生かせる方法がありません。家事費になってしまいます。
そこで、せめて、一部は履行するけれど、できることなら残りを免除してほしいという苦しいを和解提案をしたりします。保証人はもともと他人の債務を代わりに履行するので何もメリットがない立場です。債権者も、少しくらいは温情を認めてくれてもいいではないかと、あまり法的でない主張をしたりします。
その結果、債権者が思い切って一部免除に同意してくれることもあります。
こういう和解ができそうになって、急に税金を心配して訊いてくる弁護士がいます。ちなみに、かって法科大学院の院生に出題したところ、その年度に合格した数名を含めた全員が免除益を認めていました。
保証人が債務超過というわけではないから、免除益に贈与税又は所得税などが課税されないかという心配のようです。債務超過なら、課税されないということをご存じなのは相続税法8条但書きや所法44条の2、1項を知っているからだと思います。
しかし、債務超過でなくても大丈夫です。無資力でなくても大丈夫です。保証債務は本来の債務ではなくて、履行責任というものです。債務免除による免除益というものが発生しないと考えられます。
ですから、免除益が生じるのを恐れて和解交渉をしていたのでは困ります。保証人のためにはできるだけ責任の範囲を小さくするべきです。
他方、債権者は、無資力でない保証人から債権の回収を諦めて不用意に保証債務の履行を免除したりすると、主債務者が破産などして無資力になっていても、貸倒処理ができない恐れがあります(事業者や法人の場合)。代理人は、「その履行免除がその余の保証債務の履行を実行させるために必要だった」などの合理的な理由が立証できる限度で保証債務の履行を免除するのですが、容易に回収できることが明らかな保証債務を免除したというケースでなければ貸倒処理が認めるのが実務の実際だと思っています。
参考
和解の法理と税務/Ⅳ(3)/解説4/2 保証債務の免除益
/解説1/1 保証人からの債権回収と課税関係
和解の法理と税務Ⅴ1.7 紹介 https://www.yamana-tloffice.com/law-tax1-7/
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