1 和解関連 和解を担う弁護士の不安
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【keyword】質 問 |
回答(一見解) |
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【課税問題が生起する和解】 和解といっても、いろんな法律関係の分野で成立するものですが、課税問題が特に起きやすいとか、逆にあまり問題にならないという領域などはあるのでしょうか。 |
原則論でいうなら、そういう区分はないということになります。私法関係の創造、変更、解消などを招来する和解には課税関係が問題になりますが、これは、いずれの法領域の和解でも同じです。 ただ、敢えていうなら、非課税か否か、必要経費算入の可否などが問題になる「損害賠償関連和解」は、和解例も多いですが、課税問題となることも多いといえそうです。 |
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【解決金と和解金】 解決金と和解金を使い分ける意味がありますか。 |
税法上は区別する意義はないです。法的にもほとんど区別する意味はないと思いますが、債務や義務の存在を認めていないけれど、事案を早期に解決するために支払う場合は「解決金」が感覚的に合うような気がします。 |
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【和解の形態と課税の関連性】 和解で財産を給付することを約する条項があれば、必ず課税問題が生じるのでしょうか。 |
限りません。例えば、原状回復のための支払い、財産の移転の場合は、課税関係が生じません。逆に、確認条項であっても、課税関係が生じることはあり得ます。 |
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【課税関係の解消和解】 取引のトラブルを解決する合意がやっと成立したのですが、意外な税金が課税されることがわかりました。ベストの対処法を教えてください。 裁判所の即決和解で合意解除して白紙に戻しておけば大丈夫と聞いたのですが。 |
その意外な税金について、課税庁から決定や更正の処分を受けてからでは、合意解除をしても、なかったことにはできません。申告をしてしまっている場合も同じです。確定判決と同じ効力がある裁判上の和解をしても変わりません。 税金がたくさん課されることに気がついたのなら、申告をする前に、遅くとも法定申告期限前に合意解除をして、原状回復をしておくことが肝心です。即決和解よりもそちらを優先するべきです。 |
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【和解と税金の錯誤】 和解をしてホッとしていたら、思わぬ税金を課税されてしまいました。裁判官も気付いていなかったようです。税金がかかるのなら和解はしなかったはずですから、錯誤無効になりませんか。 |
要素の錯誤となって、和解合意の私法法律関係の錯誤無効を主張できる場合はあり得ます。ただし、動機の錯誤の問題、重過失の問題があります。一般に、和解の錯誤無効は認められるケースが稀有です。「税金の錯誤は救済されない」と考えておく方が無難です。 |
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【その余の請求放棄と課税】 和解の最後に、「原告はその余の請求を放棄する」との条項が入っています。これが税金に影響する心配はないのですか。 |
大概は心配ないです。 この文言は、和解の決まり文句で、原告の請求が残っていると解決したことにならないので、このような確認的な記載をするだけです。具体的な債権の放棄や免除ではないと考えられます。具体的な債権が残っている場合は、その債権について放棄・免除をする明確な条項を作成するはずです。 |
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【権利の放棄と貸倒処理】 裁判で和解をする場合は、権利の一部を放棄させられることが多いですが、裁判所が関与する和解であれば、放棄した債権額は貸倒処理できると考えてよいのでしょうか。 |
和解でやっと債権の一部を回収するのですから、放棄した部分は回収困難であることが予想されます。ですから、回収不能として貸倒れによる必要経費算入が可能な場合が多いでしょうけれど、和解・調停という手続きによる放棄だからといって当然に認められるわけではありません。回収不能か、その放棄によって一部の回収が可能になったという事情が必要です。 |
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【弁護士報酬の必要経費・損金算入】 和解で解決したのですが、弁護士報酬(謝金)を必要経費として控除できるのは当然ですね。 |
事業所得や不動産所得、雑所得などの事業ないし業務に係る紛争のために弁護士に依頼して、事件が解決したことによる報酬は、原則として必要経費・損金算入が認められます。しかし、譲渡所得の譲渡費用性、取得費性は慎重に検討する必要があります。また、時効取得や立退料などの一時所得の場合も一概に必要経費になるとは限りません。 |
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【訴訟費用の負担】 和解条項の最後に「訴訟費用は各自の負担」という文言が付けられますが、税務上の注意点はありますか。 |
元々、当事者が出した費用は各自負担ということを確認する条項です。その支出が必要経費や損金に算入できるものであれば、既に算入していると考えられます。勝訴すれば相手方負担になるからといって、支出分が経費計上できないわけではありません(管理支配基準)。 |
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【回収訴訟費用と税金】 被告が当方の請求を全面的に認めたので、履行時期だけを改めて決めただけの和解にしてもらったのですが、和解である限り「訴訟費用は各自の負担とする」という条項になると言われました。仕方ないので、和解とは別に、事実上訴訟費用は支払ってもらうことにして、和解をしましたが、この回収訴訟費用には税金がかかりますか。 |
各自の負担というのは、支出した当事者の負担ということですから、訴訟の相手方は自己が支出した以上を支払う理由はありません。事実上支払ってもらったといっても、やはり法的な支払根拠はありません。ただ、被告からの贈与になるというのも断定しかねます。被告が支払うことに同意して支払っているのですから、原告に不必要な費用を支出させたことに対する一種の損失補てん金というのが実態だと思います。ただし、原告は必要経費に算入している金額でしょうから、非課税にはなりません(所得税法施行令30条本文括弧書き)。しかし、事業行為等によって取得したものではありませんから、一時所得の収入金額と解します。 |
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【和解か判決か】 和解をしても、合意はしょせん当事者が合意しただけものに過ぎないという理由で、税務署は課税関係の変更を認めてくれないといわれています。それなら、常に判決を取るのがいいのでしょうか。 |
和解は、税金のためにするわけではありません。権利の実現、権利関係の調整のためにするものです。課税関係はそれについてくるものですから、基本的には副次的なものです。いずれによるのがよいかという選択の比較をするものではありません。 ご質問の和解は、おそらく、課税関係を解消、変更するために法律関係を解消、変更しようとする和解と思います。確かに、私法法律関係を和解で解消、変更しても、課税庁は一旦課税敵状にあるとして課税した関係を任意に変更することは認めません。その意味では判決を取得するのは一つの方法ですが、判決であれば常に課税関係を覆せるというわけでもありません。 |
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【未申告の未収入金の免除・放棄】 申告していない未収入金がある場合は、和解でその債権を放棄することを明記した方がいいのでしょうか。 |
申告するべき未収入金というのは、いわゆる「収入すべき金額」として確定しているものです。支払期限が到来していても、債務者の資力等によっては債権が確定していないものがあります。このような債権まで未収入金として収入金額に算入することは要求されていないと解します。 債務を免除又は債権を放棄するのは、税法上は所得計算において収入金額として申告していることが前提です。未申告の債権を免除しても貸倒損失等の対象にはなりません。 |
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【即決和解の効果】 即決和解は課税庁が認めないというのは本当ですか。反対に、当事者間で合意しただけでは否認されても、即決和解をしておけば大丈夫とも聞いたのですが。 |
即決和解(裁判前和解)も和解の効力としては裁判上の和解と変わりありません。税法上の扱いも変わりないのが原則ですが、和解は当事者の合意による法律関係の構築ですが、それによって当事者が任意に課税関係まで変更することを税法は認めていないということです。即決和解は、実際の紛争の有無や紛争の経緯などが不明確なことでより慎重に検討されることは確かでしょう。また、即決和解が合意内容を明確にする点では優れていますが、それと税法上の効果は別のことです。 |
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【履行不能の和解】 できもしないのに、ともかく支払期日を先にするような分割和解を被告から懇願されることがあります。 どうせ、回収できない債権と諦めているので、被告に合わせもいいのですが、何か問題がありますか。
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実現がほとんど期待できない債権なら、経済的には無価値ですから、債務者に合わせてもよさそうですが、税法では別の配慮が必要です。回収不能となるのが先送りになって、貸倒処理も先送りになります。損失の発生による必要経費算入、損金算入が先の課税年、決算期の方が有利であることが確かに見込めるような場合でもない限り、避けた方がよいでしょう。 |
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【未申告の未収入金の免除・放棄】 申告していない未収入金がある場合は、和解でその債権を放棄することを明記した方がいいのでしょうか。 |
申告するべき未収入金というのは、いわゆる「収入すべき金額」として確定しているものです。支払期限が到来していても、債務者の資力等によっては債権が確定していないものがあります。このような債権まで未収入金として収入金額に算入することは要求されていないと解します。 債務を免除又は債権を放棄するのは、税法上は所得計算において収入金額として申告していることが前提です。未申告の債権を免除しても貸倒損失等の対象にはなりません。 |