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相続債務に係る法律と相続税の問題 |
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質 問【Keyword】 |
回答(一見解) |
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【債務弁済と承認】
被相続人が金融業者から借りていた借金ですが、相続人は返済を迫られて一度だけ少額を返済したと言っています。もう、相続放棄はできないのでしょうか。 |
債務の返済は承認したとみなされる行為ですが、この事情では、その一回だけの一部弁済で必ず承認したとみなされるとは限られません。返済額が少額で、自分が当該債務を返済することを認めたとは思われない事情があれば、放棄の申述をしてみる価値はあります。 ▶相続の単純承認と見なされる処分行為等 4-Q5 遺品の整理と相続の承認効果 |
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【相続債務の分割】
相続債務を共同相続人間で法定相続分と異なる割合の分割をすることはできますか |
できます。ただし、相続債権者には対抗できません。 相続税の計算には影響します。 4-4-5 債務分割と相続税 ▶遺産債務の分割協議 |
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【債務承継者の指定】
遺言で債務の承継者を指定することはできますか |
できます。ただし、相続債権者に対しては対抗できません。債権者は共同相続人に対して相続分に応じた債務の履行を請求できます。相続税は、当該相続人が取得した相続財産の価額から承継した債務の金額を控除して計算します。 ▶遺言による債務承継者の指定 |
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【扶養義務の相続】
妻の唯一の相続人である夫は、妻が実母に負っていた扶養義務を相続して義母の生活扶助を続けなければならないのでしょうか。 |
扶養義務を相続することはありません。 扶養義務は一身専属権ですから相続の対象になりません。ただ、当該夫にとって義母は一親等姻族ですから親族に該当します(民法725三)。家庭裁判所が夫に扶養義務を負わせることはあり得ます(同877②)。 |
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【相続放棄と生命保険金の受領】
被相続人の債務が多額なので相続を放棄するつもりですが、そうすると、被相続人が掛けていてくれた生命保険金は受け取れなくなるのですか。 |
取得できます。保険金は相続財産ではありません。ただし、「みなし遺贈」となりますから相続税の申告が必要になる場合があります。
▶相続放棄をした者が取得した生命保険金等 1-3-3 相続の放棄と相続税 |
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【相続開始を始期とする債務と債務控除】
被相続人は、生前、お墓(墓石)の購入・設置の契約を業者と交わしていました。ただし、被相続人が亡くなってからお墓を設置することになっていました。総費用額は契約書に明記してあり、その分は配偶者が預かって保管していました。相続税の申告時には実際にお墓を設置して費用もそこから支払っています。葬式費用か相続債務で控除することはできないのでしょうか。 |
相続財産の価額から控除ことはできると解します。 墓石の購入費用、設置費用は葬式費用には該当しません。 被相続人の生前の契約による債務を相続債務と扱えるか否かです。控除ができる債務は「相続の際に現に存するもの」で「確実と認められるもの」です(相法14①)。被相続人が業者と交わした契約は成立しています。契約上の債務は金額も含めて確定しています。ただ、契約の効力発効に不確定期限が付されているものと理解します。「相続開始の時」に存在するかといえば疑問ですが、「相続開始の際」はもう少し幅がありますから、相続開始と同時に発効、発生した債務は含まれると解されています。金額も確定していますから「確実な債務」といってもよいでしょう。なお、配偶者が費用(代金)を預かっていたことは特に影響しないと思います。 |
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【停止条件付き債務の相続債務性】
被相続人が提起していた事件が相続開始後に勝訴したので、勝訴した場合に支払うことになっていた弁護士報酬を相続税の申告期限前に支払いました。この場合、相続債務として控除して相続税を計算してもよいのでしょうか。 |
特別な例外として控除が認められる可能性は高いと考えています。 停止条件付き債務については、債務控除を認めないのが実務と思います。債務が確定しているとは言えないからです。しかし、相続税の申告期限前に現実に支払ったのであれば、金額も明確になっているのですから、相続開始時点で確定していたものと扱っても不都合はないと思います。なお、停止条件付き権利は、相続財産とは扱われていません。 4-2-5「相続債務」 3-1-3「相続財産(3)特殊な債権」 |