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遺産分割に係る法律と相続税の問題 |
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質 問【Keyword】 |
回答(一見解) |
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【遺産預金の払戻し】
遺産分割ができないうちは遺産預金の払戻しはできないのでしょうか。銀行に問い合わせたところ、相続人全員に共同で請求してもらうことになっていると言われました。 |
結論として、単独の払戻請求はできなくなりました。これまでは、法定相続分相当額なら相続人単独でもできたのですが、判例の変更(最決平28年12月19日)によって、預貯金も遺産分割の対象になるとされたため、状況は一変しました。 遺産分割ができるまで持分相当額の払戻請求ができなくなったことの実務上の影響は大きいです。お金がある相続人が、相続税の資金のない相続人に遺産分割を無理強いするような事態が生じる可能性もあります。 |
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【代償分割の相続税計算】
現金がないので、代償金の代わりに自分の土地と上場株式を渡して遺産全部を取得した場合の申告はどうするのですか。 |
相続税は、取得財産の価額から土地と株式の価額を控除して計算します。土地と株式については、譲渡益があれば譲渡所得税の申告が必要です。譲渡所得税は相続税の計算において控除できません。 4-4-2「代償分割」 |
3 |
【少額取得財産と申告義務】
ほんのわずかの遺産をもらっただけですが、相続税の申告は必要なのですか。 |
課税相続案件である限り、取得財産の多少にかかわらず納税義務者です。 5-1-1「相続税の申告書提出義務者と提出期限」2(2) |
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【相続分の有償譲渡】
相続権者として遺産はもらいたいが、長々とした遺産分割の協議には参加したくないという相続人が採り得る手段はありますか。 |
A 自分の相続分をだれか他の相続人に全部譲渡すれば遺産分割協議から離脱できます。有償で譲渡すれば、その対価は代償金を得たのと同じです。第三者への譲渡も可能ですが、あまり勧められません。 4‐Q3相続人間での相続分の譲渡 4‐4‐7「相続分の譲渡」 |
5 |
【隠蔽財産の調査】
遺産の一部を被相続人と同居していた長男が隠しているようです。他の相続人からこれを明らかにさせる方法を尋ねられているのですが、法的な手段としてはどんなことができるのでしょう。 |
法律上強制する方法はありません。 遺産を隠していることが後に明らかになると相続税のペナルティーがあります。そのことを説明して開示するように求めるか、明らかに不審な点があれば税務署に相談することも考えられます。調査があれば隠蔽が明らかになることも期待できます。ただし、税務署が調査をするのは必要を認めた場合だけです。また、隠蔽財産と長男の財産との区別は容易でないのも確かです。 |
6 |
【数通で一の遺産分割協議書】
遺産分割協議書は相続人全員が一つの文書に連名で署名・押印をしたものでなければならないのですか。 |
単一の文書でなくても大丈夫です。 遺産分割は相続人の全員が合意していることが必要ですが、一つの文書に相続人の全員が署名、押印している必要はありません。同じ内容の分割協議書を数通作成して、相続人らが別々にそのうちの一つに署名、押印をしても、各分割協議書を併せれば相続人全員が合意していることが証明できれば大丈夫です。もっとも日付まで同じ内容の文書にしておくべきです。 ▶遺産分割協議書の要件 |
7 |
【記名押印による遺産分割協議書】
遺産分割協議書には必ず自筆で署名しなければならないのですか。印鑑証明書を添付していても、自筆署名でなければ有効ではないのですか。 |
印鑑証明書を添付するのは、その遺産分割協議書にもとづいて相続登記をするとか、遺産預貯金の払戻請求とか名義変更手続きをするために文書が真正に作成されていることを証明するためです。内部的な確認のためだけなら必須のものではありません。署名は、法令上は自署が要件になっていますから(相規1の6③一括弧書き)、少なくとも署名は自署で作成するのが望ましいです。もっとも、実務では記名押印でも相続登記申請や相続税の申告を受理しています。 ▶遺産分割協議書の要件 |
8 |
【特別代理人との遺産分割協議】
未成年者相続人のために特別代理人を選任しなければならないのはわかっているのですが、遺産分割はその特別代理人と話し合ってまとめればいいのですか。 |
特別代理人の権限は限られています。特別代理人が署名・押印する遺産分割協議書を用意して、その内容が未成年者に不利でなければ、家庭裁判所がその遺産分割協議書を作成する範囲内で代理権行使を許可します。分割内容を代理人の権限で決められるわけではありません。 1-Q8 特別代理人を選任しての遺産分割 |
9 |
【遺言書の一部変更】
遺言書があるのですが、その一部だけを変更して、それ以外は遺言書どおりにしたいということです。可能でしょうか。 |
できます。 遺言書の一部について、それと異なる遺産分割をすることになります。もとより相続人や受遺者らの当事者全員が同意している場合に限られます。 ▶ 遺言書と異なる遺産分割 |
10 |
【生命保険金の受領と配偶者税額軽減特例】
みなし相続財産となる生命保険金の受取人が配偶者です。申告期限に遺産分割はできていませんが、配偶者税額軽減特例の適用は無理でしょうか。 |
特例の適用は受けられます。 その保険金は取得が確定している財産です。
1-Q4 配偶者税額軽減特が適用できる場合 |
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【共同相続人以外に対する贈与と特別受益】
被相続人から長男の孫や嫁に多額の生前贈与がされています。これは遺産分割や相続税の計算に際して持戻しをしなくてもいいのでしょうか。 |
持戻計算は不要です。適法に贈与されたものは被相続人の財産から離脱します。孫が代襲相続人の場合は、被代襲者の長男が亡くなった後に贈与されたものが特別受益に該当することがあります。この場合は持戻しの対象になります。 なお、特別受益の持戻義務の承継については15を参照。 |
12 |
【持戻義務の承継】
代襲相続人の親(被代襲者)が被相続人から生前に特別受益となる贈与等を受けていた場合は、代襲相続人は持戻義務があるのですか。 |
持戻義務があります。つまり、代襲相続人は被代襲者の特別受益の持戻義務を相続しているのです。代襲相続人は自身の特別受益と被代襲者の特別受益の両方について持戻しをしなければならない場合があります。 |
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【特別受益分を考慮しない遺産分割】
相続人のそれぞれが、かなりの差があるにしても、生前贈与を受けているのは間違いありません。この場合、特別受益の持戻しをした遺産分割をしなければ相続税の申告は修正させられるのでしょうか。 |
その心配はありません。相続税法では特別受益についての規定はありません。遺産分割は、相続人の全員が合意しているのであれば、遺産の範囲(持戻しをしないで現実に存在する相続財産に限定するなど)や相続割合(具体的相続分を考慮しない相続分)を任意に決めることは可能です。 ただし、相続開始の3年以内に被相続人から受けた贈与の価額は相続財産に加算しなければ相続税の申告は修正させられます。 2‐1‐3 「相続させる遺言」5①② 4‐2‐2 「3年以内贈与の加算」 |
14 |
【未分割申告と特別受益】
未分割のまま相続税の申告をする場合でも、特別受益者については特別受益の価額を持戻して、具体的相続分率で財産を取得したものとみなして相続税の計算をする必要があるのですか。 |
実際にはそのような計算をしなくても相続税の申告は受理されます。相続税法55条は「法定相続分又は包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして課税価格の計算」することになっています。この「法定相続分」は特別受益を考慮した相続分のはずですが、遺産分割をする際に特別受益は考慮されても、未分割の相続税を申告する段階では持戻し計算などするのは困難です。実際には、民法が定める相続分の割合で各相続人が取得したものとして相続税の申告をしています。 1-3-1「相続分の意義と問題点」5 4-3-2「遺産未分割と相続税の計算」 |
15 |
【一次相続の遺産分割と二次相続の相続財産】
一次相続(夫死亡)が未分割のうちに二次相続(妻死亡)が開始しました。一次相続の遺産分割ができるのはわかっているのですが、それによって相続税が還付される場合は(申告済み)、二次相続の相続財産に影響するのですか。 |
一次相続の相続人(妻)が二次相続の被相続人(妻)です。一次相続について、遺産分割が成立して妻に配偶者税額軽減特例の適用がされる結果、相続税の還付請求権を取得します。それは同人が被相続人である二次相続の相続財産に加算されます。 特例が小規模宅地等の課税価格計算特例の場合は、一次相続の遺産分割に基づいて改めて各自の相続税額を計算します。その結果、二次相続の被相続人(妻)の税額が減額となる場合は還付金請求権が二次相続の相続財産に加算されます。 要は、一次相続の遺産分割の結果、二次相続被相続人の一次相続税額が減るか増えるかです。増える場合は相続債務になります。 |