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遺産現金(相続財産)に係る法律と相続税の問題 |
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質 問【Keyword】 |
回答(一見解) |
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【遺産現金の費消と弁償】
被相続人の配偶者は、遺された遺産現金で相続開始後の生活費をまかなっていますが、他の相続人が異議を言い出しました。配偶者の相続分相当額の範囲内なら違法ではないという弁解は通用しないのでしょうか。 |
混乱があります。現金も分割対象となる財産ですから、配偶者の相続分相当額といえども当然に配偶者に帰属しているわけではありません。費消してしまった現金であっても、遺産分割の対象にすることはできます。そうすると、単に費消しているだけでは配偶者税額軽減特例の適用はないと解します。一方、配偶者も遺産現金に権利を有していますから、費消したことが直ちに横領等の犯罪行為になるわけではありません。 結局、配偶者が取得した分も遺産分割対象に含めて、それを同配偶者が取得する内容の遺産分割をするのが穏当と思いますが、他の相続人がそれを取得する内容であれば、配偶者はその取得者に弁償しなければならないことになります。 4-4-5「債務分割と相続税」 ▶遺産預金の払戻しと配偶者軽減特例の適用 |
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【遺産現金の帰属】
相続財産の現金はいかようにも分けられる財産ですから、法定相続分相当額は当然に相続人に帰属するという理解はどこが間違っているのですか。 |
現金は可分債権ではなく、一種の動産という理解です。相続が開始すると共同相続人らの共有状態となります。確かに、預金よりも分割しやすいのですが、可分債権と所有権の違いといえるのかもしれません。現金の所有権というのも違和感がありますが、債権でないことは確かです。可分債権である預金の払戻請求権について、当然分割説を否定して、遺産分割の対象になると判断した最判平成28.12.19の影響ですが、少なくとも、現金が相続人に当然分割帰属する方向ではないと言えそうです。 |
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【遺産現金の運用】 【共有遺産の管理】
被相続人が残してくれた現金がかなりの金額あります。しかし、それを事実上管理している長男はこれを預金するだけでなく、投資信託などに投じて運用しています。やめさせられないのでしょうか。 |
投資信託運用はやめるように請求できると解しますが、預金は、長男名義にしていれば問題ですが、そうでなければ適法な管理方法でしょう。 遺産の現金は共有物です。保存行為は単独でできますが、管理行為は各共有者の持分の価格にしたがい(ここでは相続分に相当する価額になります)過半数で決定します(民法252)。共有物に変更を加えることは他の共有者の同意がなければできません(同251)。ところで、共有物である現金をリスクのある投資信託で運用するのは管理行為を越える変更になると解します。他の相続人の同意がなければできません。しかし、預金は元本が保証されているのですから保管方法を変えるだけの保存行為といえます。ただし、預金名義は共有者の代表者としてするなどが必要です。長兄の固有財産と混同するような預金の仕方は疑問です。 |