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遺言書に係る法律と相続税の問題 |
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質 問【Keyword】 |
回答(一見解) |
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【相続させる遺言と遺言執行者】
遺言執行者がいる場合でも、相続人が遺言書に基づいて単独で相続登記などができますか。 |
「相続させる遺言」ならできます。遺贈の場合は遺言執行者に協力してもらいます。 5-Q1遺言執行者がいる場合の遺言実行 2-1-3「相続させる遺言」2 ▶相続させる遺言 |
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【遺贈遺言の読み替え】
相続人に「遺贈する」という遺言ですが、遺言執行者が指名されていないところをみると、被相続人は「遺贈」と「相続させる遺言」の違いを意識していなかったのだと思います。「相続させる」に読み替えることはできませんか。 |
読み替えるということはできません。遺言執行者の選任を家庭裁判所に申請することができます(民法1010)。遺言執行者がいなければ、相続登記をする際に他の相続人の同意(登記義務者の協力)が必要ですが、仮に同意を得られなくても、遺言が有効であれば同意に代わる判決を得て遺言内容を実現できます。相続人全員が遺言内容に異存がなければ、同内容の遺産分割協議書を作成することも可能です。 なお、相続人に対する遺贈ですから、現在では不動産取得税や登録免許税なども相続させる遺言と税率に変わりありません。 2-1-3 「相続させる遺言」 ▶相続させる遺言 |
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【要式欠缺遺言】
相続人が、日付が空白の遺言書が見つかったと連絡してきました。無効だと思いますが、遺言者は「日付は自分で日を選んで記入しなさい」と言っていたようです。どのようにサポートすればよいでしょう。 |
無効だと思います。遺言は要式行為であり、日付の記載は要件です(民法968①)。白地手形のように、日付の記載権限を遺言者が付与しているとの解釈が認められるかは未知数です。かといって、日付を補充すれば有効な遺言になると助言するのは避けるべきです。 相続人が、その遺言書の内容を遺言者から聞いていたりして承知している可能性が高いと思われます。死因贈与契約が成立しているとして遺言内容を実現することを検討する価値はあります。 2-1-4 死因贈与 5-Q4 無効遺言が死因贈与と認められる要件 |
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【遺言による権利の相続】
遺言者が「相続させる遺言」で財産を取得させることにしていた長男が遺言者よりも先に亡くなりました。長男には子(遺言者の孫)がいますが、その子が遺言上の長男の権利を相続するのならそれで異存ないと言います。そうなるのでしょうか。 |
残念ながら孫は相続しません。遺言は長男の死亡により長男に関する部分は途切れてしまうと考えてください。遺言書を書きなおすことが必要です。たしかに、遺言書に、長男が死亡している場合はその子に相続させる旨が明記されているような場合は、その遺志を尊重されることになっていますが、余裕があるのなら、遺言書の書きなおしのほうが無難です。 ▶「相続させる遺言」による遺産取得相続人が遺言者より先に死亡した場合 |
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【停止条件付き補充文言遺言】
遺言で財産を取得させる予定の者が遺言者より先に死亡した場合には、その財産を別の者に取得させる遺言書は有効ですか。 |
有効です。「Aが遺言者の相続開始以前に死亡した場合は、Aに相続させることにしている財産をBに遺贈する(相続させる)」という遺言文言を補充しておきます。 |
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【夫婦相互遺言】
夫婦がお互いに自分が先に死んだ場合は相手に遺産を相続させたいのですが、それぞれが、相手が先に亡くなった場合に取得する財産を前提にした遺言を作成することはできますか。 |
相続開始の時に存在する財産についての遺言としてできます。夫婦がそれぞれ互いに財産を相手に相続させる旨の文言を入れます。その上で、自分が死亡の時に配偶者が死亡している場合は、その相続した財産を含めて相続する相続人を指定します。相続人以外の人に遺贈することも可能です。 |
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【特別受益の持戻し免除】
家業を支えてくれた長男に生前贈与をしてやっても、特別受益となって相続分を減らされるのでは意味がないと悩んでおられます。具体的な対処方法はありますか。 |
特別受益の持戻しを免除しておきます。 その旨を他の相続人に伝えておけば足りますが、長男のためには意思表示は明確にしておくべきです。遺言書で免除の意思表示をすることが多いです。持戻しの免除は、他の相続人が承諾している必要はありません。 具体的には「○○に対する贈与はなかったものとして相続財産には加算しない」などの文言が考えられます。 |
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【扶養条件遺言の履行請求】
被相続人の遺言書には、妻(母親)を長男が同居して扶養することを条件に自宅と遺産預金の半分を相続させるという文言があります。これにもとづいて長男は自宅と預金の半分を取得したのですが、母親とは同居していないうえに、生活費も支給しようとしません。長男以外の相続人にできることはあるでしょうか。 |
条件付きの相続させる遺言と理解します。長男は母親を扶養するべき義務があります(財産を取得したことに対応する義務で、民法877条以下の扶養義務とは異なります)。母親は、長男に対して扶養することを請求できますが、母親も、他の相続人も、不履行を理由に長男から自宅や預金を返還させることを法的に強制することは難しいと思います。 長男が取得している自宅について、遺言の効力が生じていないことを理由に、遺産であること(遺産分割の対象財産)を確認する調停や裁判も考えられますが、どこまで実効性があるかは不明です。 |
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【廃除遺言の実効性】
遺言者をないがしろにする長男家族に遺産を相続させたくないという相談があるのですが、長男を廃除する旨の遺言を作成するアドバイスでいいのでしょうか。 |
長男を廃除しても、長男に子がいる場合は「長男家族」の一部が代襲相続します。 廃除は長男の相続権を剥脱しますが、同時に代襲原因ですから子が代襲相続人になります。孫は遺留分を有する推定相続人(民892)ではありませんから、孫自身を廃除することはできません。ただし、遺産はすべて長男以外に取得させる遺言になるでしょうから、結果的に孫が取得できる遺産はないことになります。 なお、より深刻な問題は、家庭裁判所が排除の審判を容易には認めてくれない実情です。 ▶相続人廃除の効果と代襲相続 |